転倒、ケガ、その後。(2)リハビリ編


この記事は前回からのつづきです。

関節の拘縮と腱の癒着

右手にギプスを付けていたのは2週間。シーネ固定の10日間と合わると、術後24日のあいだ、手から前腕にかけて固定されていたことになります。

これが例えば、膝の前十字靭帯再建手術などの場合、早ければ手術の翌日から動かし始めることもあるそうです。しかし、母指CM関節靭帯再建手術のようなケースでは、術後3週から4週はガッチリ固定されるのが普通です。(靭帯の太さや手術方法などが膝とは大きく異なるため)

この約1か月という固定期間。これがクセ者であります。関節というのは数日動かさないだけで「拘縮」が始まるそうで、同様に、腱が周辺組織とくっ付いてしまう「癒着」も生じます。手の靭帯再建手術を受け、ギプスで数週間固定されれば、これらは避けることができない症状ということになります。

再建したCM関節の靭帯が中手骨としっかり癒合するには、術後6週から8週程度の時間が必要だそうです。そこだけを考えれば動かさずにおくのが良いのでしょう。一方で関節の拘縮腱の癒着は確実に進んでいくため、できるだけ早期の可動リハビリ開始が求められます。このせめぎ合いなのでしょうね。

ともあれ、リハビリを始めないことには話になりません。今回手術を受けた病院では術後のリハビリにも力を入れており、引き続き通院して回復に努めることにします。

ギプスを外した直後の状態は?

通院リハビリ開始前に、簡単に自己診断をしてみました。ギプスを外して3日後の状態です。固定が終わったとはいえ、まだ術後4週程度。医師からは完全免荷の指示が出ています。「箸も持っちゃダメ!」とのこと。



手術を受けた母指の部分ですが、小指と親指を向い合せる「対立」という重要な動き、これはかろうじて指先が触れ合う程度に可能です。関節の痛みや、筋力の衰えによる震えを伴います。

CM関節の可動域は、この時点では非常に狭く、母指を屈曲させてこぶしを作るというような動きも不可能。親指を上に立てることすらままなりません。



長・短母指伸筋や長母指外転筋の滑走状態が悪く、切開痕が腱の動き合わせて引き攣るなど、一見してわかる明らかな癒着が見られました。ここはギプスで重点的に固定されていた箇所です。

ほかの部分では、とにかく手関節(手首)の固さが顕著です。掌側にも背側にも倒すことが困難で痛みを感じます。母指以外の4本の指はさほど大きな問題はないようですが、示指(人差し指)の屈曲が少々たいへんでした。

動き以外の症状としては、切開痕から末梢の部分で知覚の鈍麻が見られました。知覚そのものがないわけではないのですが、絆創膏の上から触っているような鈍い感覚です。

初期の通院リハビリ

通院リハビリの初回では、まず各関節の可動域をチェックし、角度を測定します。それから担当の作業療法士(OT)の手により、総合的なリハビリテーション実施計画書が作られます。それほど細かい内容のものではありませんが、この計画書をもとに、達成目標に向かって関節可動域訓練筋力増強訓練を行うことになります。

リハに入る際には必ず、バイブラバス(過流浴)ホットパックを使って患部を温めることから始めます。そうすることで関節や腱の動きが良くなり、 リハ中の痛みが軽減するのがわかります。

つづいて超音波治療器を使い、切開縫合部を中心に、腱に沿うようにしてなぞっていきます。さらに筋肉をほぐすマッサージ等を行います。

リハビリ初期の段階ではまだ再建靭帯が十分でなく、荷重制限がかかっていることもあり、CM関節部分を保持しながら軽い他動運動を行うなど、かなり慎重に扱っている印象でした。

ただし手首に関しては、思わず顔を歪めるほど強い力で掌側・背側に曲げられる、ということがありました。おそらくこの部分は手術した部位とは直接関係がないので、少々強めの負荷も許されるのでしょう。

このおかげか、手首(手関節)の動きは急速に回復。通院リハ開始から2週間を迎えるころには、ギプス固定前とほぼ変わらない可動域を取り戻しました。

一方の母指はというと、やはりそう簡単にはいきません。手術のおかげでCM関節そのものに痛みはありませんが、母指を動かす腱の滑走が依然として良くないのです。母指を伸展しながら手首を尺側橈側に倒すなど、特定の動作に及ぶと痛みをおぼえます。皮膚がつられて動くような明らかな癒着は解消したものの、見えない部分でしつこく残っているようです。

CM関節の可動域もまだまだという印象。ケガを負う前のCM関節可動域を「10」とするなら、この時点では「3」というところです。

ただしこの靭帯再建後のCM関節可動域については、以前とまったく同じ状態に戻すのは難しいという話も。「10」の回復は望めなくとも「7~8」程度まではなんとか、という気持ちでリハビリを続けるほかありません。

通院リハビリ中盤

ギブスが外れてから4週程度(術後8週)。そのあいだ週2回のペースでリハビリに通い、手の状態にも徐々に良化の兆しが見えてきました。



手術した部分とは直接関係のない指や手関節はかなり動きが良くなり、リハビリの確かな効果を実感。母指CM関節の可動域も少しずつではありますが、着実に広がってきているようです。



こうした変化は、通院によるリハビリだけでなく、自宅でのリハビリが大きく作用したように思います。担当の作業療法士(OT)も言っていたのですが、週2~3回、病院で受けるリハビリ「だけ」では、なかなか期待するような変化は望めません。

それ以外の時間でいかに地道にリハビリを重ねていくか。そこにかかっています。自宅でリハを行う際にも、患部をお湯で温めてから始めます。リハと入浴を兼ねてもよいのですが、風呂というのもなかなか慌ただしいもので、そう長いこと湯船につかっているわけにもいきません。入浴とは別にリハビリの時間を作ったほうが集中できます。

このときに注意したいのがリハビリの具体的な内容。自分で行うリハビリのメニューについては、必ず事前に作業療法士(OT)の指示・指導を仰ぎます。手の扱いを間違えば症状の悪化を招くのは確実。せっかくの新しい靭帯をダメにすることにもなりかねません。通院した際に、担当のOTに状態を確認してもらいながら、やってはいけないこと、効果的な動作などをよく聞いて、自宅でのリハビリ運動に活かします。

通院リハビリ開始から8週目以降

リハも8週を過ぎると、問題点はかなり絞られてきます。母指につながる腱の滑走は、やはり依然としてスムーズさを欠いたままです。OTいわく、まだ癒着が残っているのではないかとのこと。毎日、意識的に動かすようにしているのですが、なかなかスッキリしません。

ただ、リハビリを続けていたあるとき、ある箇所の違和感が突如軽快するという経験をしました。おそらく癒着の一部がはがれたのではないかと想像します。このような急な軽快はめったにないことかもしれませんが、辛抱強く続けることは決して無駄ではないと感じました。

通院リハ5週目あたりからは、OT指導のもと、可動域訓練と並行して筋力増強訓練も始まっています。セラピーパテというシリコン製の粘土を使って握る動作などを繰り返すことで、衰えた手指の回復を図ります。

セラパテは固さに応じて複数の種類が用意されていますが、2番目に柔らかいソフト(黄色)のセラパテすら、筋力の衰えた右手には握りごたえのあるものでした。



同様に自宅リハでも筋力の回復訓練を開始。OTのアドバイスに従い、タオルハンカチを使って、5分の力で握ったり丸めたりという動作を繰り返します。

セラパテやセラピーエッグ等、市販のリハビリアイテムはネット通販なら1,000円程度で入手可能なようです。病院で何度か触ってみて面白いと感じたら、自宅リハ用に購入するのもいいかもしれません。

通院リハビリ終盤以降

都合もあり、通院によるリハビリは10週でとりあえず終了。以降も自宅でのリハビリは継続します。日常生活に大きな不自由はなく荷重制限も解除。母指CM関節そのものに痛みはありません。腱の一部には依然として張りや違和感が残っており、少し動かさずにいると手が強張ります。握力もかなり弱くなってしまいました。衰えた筋力というのはそう簡単には戻りませんね。



右母指CM関節の可動域はそれなりに拡大しました。それでもケガ前と比べればせいぜい7分というところ。健常な左手とはけっこうな差があります。

母指対立の動作にはほとんど影響せず、「つかむ」「つまむ」という動きはほぼ問題なし。しかし他方で、母指が背側(手の甲側)に十分に上がらず、五指を水平に揃える(手を平らにする)ことができません。そのため、いくつかの場面で以前のように上手くいかず、頻繁に使う利き手だけに少々もどかしさを感じます。



術後12週目の診察の際にこの点を聞いてみたところ、医師は「制限している」というような言い方をしていました。母指CM関節はもともと自由度の高い関節ですが、動きすぎるのも良くないらしく(CM関節不安定症)、靭帯を少々タイトに作り直すことで、関節可動域をある程度制限しているようでした。厄介なものですね。

CM関節の手術に靭帯再建術が使われるようになったのは、ここ最近10年ほどのことだそうです。それ以前はCM関節を固定してしまう手術が主流でした。現在でも関節固定術を行う場合もあるそうですが、私なら靭帯再建術を選びます。可動域が少々狭くなっても関節機能が残るのですから、QOLやADLの観点からしても違いは大きいと思います。

切開縫合痕について

手の甲や手首付近は傍目にもよく見える部分であり、術後の傷痕を心配する方がいるかもしれません。女性はもちろんのこと、男性でも職業によっては気になるところでしょう。



ギプスが外れてからは、傷の治りはあっという間でした。切開痕も日を追うごとに目立たなくなっていきます。自身の体質や、執刀医の技量にも左右されるようですが、ある程度馴染むまで術後10週ほどは必要でしょう。傷痕を極力目立たなくする縫合方法もあるようなので、気になる方は事前に医師に相談してみてください。

それから余談ですが、私の場合どういうわけか右手の体毛が濃くなりました。なぜなのか?(笑)

知覚鈍麻

手術(切開)を受けると、一時的に末梢神経が切断され、皮膚の感覚(知覚)が鈍くなることがあるそうです。私の場合も、切開痕から先の部分に知覚鈍麻が見られます。絆創膏の上から触っているかのような感覚だったり、場所によっては、逆に異常な刺激を感じるという具合です。しかしそれほどひどい状態ではないため、ビタミンB12などの投薬治療は受けていません。

術後3か月の時点でも依然として鈍麻があります。これは時間とともにゆっくり軽快していくそうです。鈍麻によって何が不自由だという話でもないので、経過については楽観しています。

これから先のこと

手術のおかげで母指CM関節の痛みは完全に解消し、脱臼していた関節も正しい位置に収まっています。日常の動作に不自由はありません。現時点では予後は良好と言えると思います。

一方で、一部の腱の滑走が十分ではなかったり、しつこい張りや違和感は相変わらず残っています。とある海外のフォーラムでは、完全に良くなるまで12か月から18か月は必要という意見もありました。

「そういえば手術を受けたんだっけ」
時間が過ぎ、そう思うようになったとき初めて、治療が上手くいったと言えるのかもしれませんね。

今後の状態については逐次追記する予定です。

>>つづく

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転倒、ケガ、その後。(2)リハビリ編(この記事)
転倒、ケガ、その後。(3)費用と保険、病院選び編(最後の記事)

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